【08.01.23】2008新春講演会
「売れるものを売らない我慢 売れないものを売る信念」報告者:石戸 孝行氏(㈱京北スーパー 相談役/千葉同友会)
◆経営理念との出会い、そして決断
つい最近発表された、個人消費の動向を示す1月の日経消費DI指数をみてもスーパーマーケットに対しての見通しは厳しい。今から30年前、柏は日本で一番の激戦区になった。いろんなことをやってみたが、なかなかうまくいかない。その時、熊本同友会の会員の方から「企業は何のためにやっているんだ」というお話を聞いた。これが経営理念というものだった。そして「健康を売る」「地域で一番になる」ことを自社の理念に掲げた。京北はいったいどんなスーパーマーケットなのかポジショニングも明確にした。そして、経営理念にもとづいて24年前にタバコを売らないことを決断した。専売公社にタバコの販売免許を返上したことで「京北スーパーは潰れる」との噂がたった。これを打ち消すために「京北はタバコを売らない」という宣言をチラシにした。おりしもWHO(世界保健機構)がタバコの健康被害を正式の発表したこともあり、週刊誌、テレビ、ラジオで大々的に報道された。禁煙を進める立場の全国の病院の院長さんからの応援もあった。
◆企業の存亡はお客様が決める
最近は食品業界の不祥事が目立つが、ある会社は売上が10%減、また廃業、倒産に追い込まれた企業もある。新しいお客様を獲得するには、今までのお客さんに使うコストの6倍~10倍かかるという数字がある。つまり既存のお客様を大事する方がコストはかからないのだ。そのお客様を裏切ったツケは大きい。京北スーパーではお客様からの苦情を開示し店頭に貼り出している。これを見た主婦である新聞記者が記事にしたことで、マスコミに取り上げられることになった。このお客様からの声はデータベース化して課長以上が毎日閲覧している。また、フィルタ無しでダイレクトに社長に届くようになっている。お客様からの苦情は「不満」「不勉強」「不衛生」だ。データベースがお客様の「不」を無くすことに繋がっている。自社のある店舗では転勤時に社員がお客様からお祝いをいただいた。今までその店舗で頑張ってきたことがお客様から認められたものだと思っている。
◆既存のお客様を大切に、生産者にも感謝
お客様の95%が自社のポイントカード会員だ。カードはゴールド、シルバー、ブロンズ、ルーキーの4段階に分かれており、売上の上位30%で粗利益の75%をあげている。売上に貢献してくれるお客様により多くのポイントを優遇している。だから特売のチラシをまいて新しいお客様を集めることはしない。京北ではチラシをやらない分ホームページに力をいれている。環境に関しては、商品を入れるトレイを工夫し、トレイの内側にフィルムを一枚貼っている。商品を取り出した後にフィルムは、剥がして可燃ごみにする。トレイは洗わなくても、そのままリサイクルできる。フィルムの分だけコストもかかるが、トレイを洗う水が節約できて環境により貢献できる。社員共育は他の店をかき分けて京北に来てくれたお客様にどうやって挨拶するか、これにつきる。型どおりの角度30度で0.8秒のお辞儀の挨拶では困る。お客様を裏切ってはいけないのだ。また、「お客様の立場で」という一貫性も重要だ。顧客に関しては今いるお客様を大切にしている。また、生産者にも感謝している。毎年、60名程の参加で全国生産者交流会を開催している。生産者もそこに呼ばれることがステータスだと思ってくれている。だから生産者が汗水垂らして生産した魚、野菜、鶏を粗末に出来ない。京北スーパーで買ってよかったねと言われることが、お客様の健康に役に立っているという証拠だと思っている。地球が元気でないと良い商品も提供できない。だから環境にも配慮する必要がある。ジャガイモ一つをとってもお客様にあえて「沢山買わないで下さい。」と言っている。沢山買ってもらって腐らすより、結果的にお客様から信頼される。また、おにぎりのシャケにコチニール色素を使用しない。原材料は米とシャケと塩とのり。結果、値段は上がったがこれで良いと思っている。先ほど紹介した生産交流会では後継者がこぞって後を継ぐといっている。やはり正直な親の背中をみているのだろう。
◆本物、良質の経営を
今一生懸命やっているのはブランド作りだ。「The KEIHOKU」は自社の機関紙だが年4回発行で商品や自社の考えを発信している。手賀沼マラソンではお弁当を1400個出した。走った後に食べても胃がもたれないと好評だった。今年の正月は大間のマグロを販売し好評を得た。高級なマグロがなぜ売れたのか?の疑問を仲間に発信したが、「今年の正月くらい贅沢しようや」といったことなのではないか。お客様が本物だと理解してこそブランドとして認知される。最終的に京北スーパーで売っているということがブランドになるのが理想だ。積み上げた信用もたった一つの事で、ゼロもしくはマイナスになる。コカコーラ顧問マイケル・オコナー氏の言葉によれば、「航空会社のパンアメリカンはお客様がいらないと言ったから無くなった。店舗数、売上数を誇った時代は終焉した。商品の質、社員の質、サービスの質で争う時代なのだ。」だから良質の経営をするものだけが生き残る。そして、その経営はトップの決断が全てだ。自分の敵は自分自身のなかにあるのだ。資本回転率、労働生産性などを分析するより、本物の商品を売ることに尽きる。また「おいしい牡蠣を食べたかったら、山に木を植えよ」という言葉があるが、自社だけのことを考えるのでなく、周りの環境を考えなければならないと思っている。お客さんに「ありがとう」と言われるために経営をするのだ。お客さんに必要とされなければ経営をやっている価値は無いと思っている。もっと、いい会社になろう。もっと、いい国になろう。