【13.01.18】2013新春講演会
1月18日、ANAクラウンプラザホテル金沢で新春講演会が行われ、粟津温泉のとや社長の桂木実氏に「創業702年」~時代の変化への取組み~と題して講演してもらった。以下講演要旨。
2013新春講演会
講演者: 桂木 実 氏 ㈱のとや 代表取締役社長
テーマ:「創業702年」 ~時代の変化への取組み~
家業から企業へ
創業702年、長く続いてはいるがほとんど競争の無い社会で淡々と過ごしていた。歴史を振り返ると、最初は農業からスタートしその副業として旅館業を営んでいた。海外の長く続くホテルなどもそうだが、昔は営利目的ではなく、泊まっていただいたお客様をもてなすための「贅沢商売」だった。その影響を受けたのか、二代前までは経営者と言うよりも家業的な旦那さん文化が残っており、収益計算よりも他より立派な建物文化的な地位を高める方に注力していたようだ。自分の父で
ある先代(20代目)が受け継いだ時、それまで電機メーカーで働いていたノウハウを活かし、家業から企業にシフトさせた。具体的には、玄関で靴を脱いで入るのが一般的だったが団体客の靴の間違えや下足番の人件費を抑えるため部屋まで靴のままで行けるようにした。また、壁紙をクロスに全面的に張り替えるなど効率性を高め利益を出せる体制を整えた。
二次消費の落ち込み
加賀温泉郷の現状は大変苦しい、20年ほど前は70万人いた観光客が現在20万人を切り、天皇陛下が宿泊された有名な旅館でも倒産している。理由としては長期の不景気に伴う消費行動の変化だと思う。団体客が激減し個人客が大半を占め、宿泊以外の二次消費が落ち込んでいる。旅館は様々なサービスを提供するためにヒト、モノが必要であり宿泊費だけでは継続した経営は出来ない。是非皆様には現状を理解いただき、宿泊以外のサービスを利用してほしい。
自社広告強化
食品会社の営業を3年勤めた後のとやに戻り、先代からまず営業部門を任された。色々調べ驚いたのが旅行会社のリベートの高さ。また旅行会社へ営業に回っても、和倉や片山津などと比べ粟津温泉はワンランク下に見られ、のとやをアピールしても声が届きにくかったこともあり個人客相手の直接営業、自社広告の強化を考えた。食べ放題プランなど「カニの安売り」をする旅館が多く違和感があり、北陸の美味しいカニを食べて欲しいというこだわりを全面にPRした広告を雑誌の誌面で展開した。広告写真の撮り方も工夫し、カニ刺しにカニ味噌を付ける写真を出したところ観光客から非常に好評で、売上が伸びた。カニ味噌を付けて食べるという訴求力ある広告を出せたことは、後継者の息子に自慢出来ることだと思っている。
ネットで口コミ利用
続いてインターネットの広告に注力した。勉強するため研修など参加し、口コミの力を利用するのが非常に重要だと学んだ。今後はFacebook、twitterなどSNSでのとやからの発信を強化していくことで、口コミを発信したい方のフォローをしたい。
他の旅館は旅行会社との兼ね合いで難しいが、のとやはしがらみが無いため新しいことにすぐ取り組める。時代の変化に対応するにはこういった運も必要だと思う。
北陸新幹線は冷静に
2015年に北陸新幹線が開業。石川県民は東京で観光がしやすく便利になるが東京の反応は冷静。観光客は増えるだろうが、ブームが去った時のように1、2年もすると客足は落ち着くだろう。むしろ石川県民が東京に行くことで地元にお金を落とさなくなる悪影響が懸念される。我々は北陸新幹線を冷静に捉えるべきだ。今後石川らしさを更に伝え、東京ではなく地元民が粟津温泉に来ていただけるように魅力を高め、発信していかなければならないと考えている。
家族的経営で絆を大事に
自社の課題は少子高齢化に伴う観光客減少、対応として時代に合わせ無駄なことを思い切って無くし、コンパクトな経営をする必要がある。次に温泉街の再生。今まで自社だけが勝てばいいと思っており、総湯も自分は反対だった。しかし非常に厳しい時代となり、周りの旅館含め一体となって協力し合い粟津温泉を大きくしなければ自社も生き残れないと考えている。そして、先代が家業から企業へシフトしたのをもう一度家業へ戻したい。旅館業の原点は良い意味での家族的経営。お客様に自分の家族や従業員を家族の一員のように可愛がってもらいたい。また従業員の待遇を改善させ、満足して働いてもらうために「家族」という絆を大事にしていきたい。