【16.06.01】次代を担う 次代を託す(2)
格言書を作り心を承継
マエダ精工(株) 取締役会長
前田順市 会員
二〇一四年九月、事業承継し、現在は現場や経営に関わることも少なくなった。師と仰ぐ取引先の社長が六十五才で承継した話を聞き当社もと思った。しかし長男は三十三才で年齢的にも経験的にも名前だけのものになってしまう。そこで、創業五十周年、自身が七十才の節目になる五年後に継ぐと息子に話をした。それまでに後継者として専門技術力と人間力と経営力を身に付けるため、ISO9000の取得責任者にして、外部講師から品質管理・生産管理・技術指導を学び、社内勉強会などを行い、社長になる準備をした。
子は親の背中を見て育つもの、手とり足取り教えることはしない。背中や歴史を見て正しい判断をして欲しいと思い、承継する直前の創業五十周年の時に会社の沿革と「企業の使命は継続なり」と題した「格言書」を作成した。そこには、先代と自身との生き様や引き継いで欲しい念を書いた。(一部抜粋。「戦わずして勝つ」「逃げるが勝ち」「ケンカする時は必ず相手の逃げ道を作っておけ」「社員が一番、協力会社が二番、取引先は三番、地域、株主は四番の心構え」「社員の解雇は原則しない」)
息子の代になって、赤字になる仕事は断るようになった。お互い困った時に助けることで信用を得て大きい仕事も頂いていた。今は抱き合わせの仕事はなくなり、原価やコストを出して、出来る方法を全力で考えても赤字になる場合は、取引先に説明して断ることができるようになった。自分のやり方とは違う部分もあるが、生産性は良くなる。稼働率に余裕がでたことで、新規開拓もでき、利益の出る仕事を取ってくる。労働分配率も予想以上に上がり、新社長の頑張りを社員も認めてくれるようにまでなった。
承継した率直な感想は寂しい、気持ちは一生現役でいたい。しかし百年企業を目指すため、マエダ精工㈱が継続して安心安全なモノづくり企業(自立型パーツメーカー)として時代に付いていくためには、新しい考え方を取り入れる若い経営者に任す事業承継は避けては通れない道だ。
格言書には、前田会員の誠実さと思いやりに溢れる内容が多数書かれていた。その最後には「後継者にバトンを渡すプレゼンテーション…人間だから心が一番」と書かれていた。この取材を通し、何よりも事業承継とは心の継承でもあることを教えてくれた。