【08.11.18】経営者フォーラム<第2分科会:コンプライアンス>
「法律・道徳・社員を守る会社づくり」 ~社員満足度向上のしくみ~
報告者:乗地 茂勝 会員 大生食品工業㈱ 社長
座長:三井 敏彦 会員 社会保険労務士 山田事務所 所長
◆環境改善でやりがいづくり
食品業界は長時間労働があたりまえで離職率の高い業界のため人が育たず結果として顧客満足度を高めることは難しかった。七年前の社長就任をきっかけに、全従業員がやりがいと誇りを持てる職場、人を大切にする経営を目指そうと思った。まずは、家族との時間、自分の時間を持てるようにと「みなし残業制度」を取り入れた。全員に月間二十時間をつけた。超過分は別途支払い下回った場合は「社員が仕事の効率や生産性を高める努力をした」と評価し減額せず、早めの帰宅を呼びかけ社員に意識づけを行った。その結果、年々社員の定着率はよくなり、平均残業時間も十九年度は十五年度の三割にまで減少した。以前は朝五時から出社する社員もいたが、現在では定時出社定時退社の社員が増えた。四年前より山田事務所による指導で、賃金は「弥富式賃金評価制度」を採用、現在は就業規則を見直している。労働環境の改善で社員も変わってきたと感じている。
◆当社でも食品事故が
昨年より全国で数々の食品に関する不祥事が発生し、法令遵守や倫理観が本当に問われた。消費期限の改ざんや偽装などの発覚、今年に入ると殺虫剤入りのギョウザ事件で一気に中国産に対する不信感が高まり、この秋、三笠フーズの事故米の転用でそれを原料にした島田化学工業の事件は、工業用糊を食品として高く売って儲けるという経営者の倫理観が問われるものだ。まじめに働いていた社員は全員解雇となり被害者となった。
実は当社でも六月と九月に事件があった。六月は、施設に納品した鯖の切り身の中に楊枝が混入、外から見ても調理してもわからず食べる瞬間に発見された。口の中に入る前にわかり不幸中の幸いとなったが、日本を代表する水産会社の製品で、五十万個中この一個だけだった。故意に入れた可能性は高いが原因は特定できず、ほぼ同時期に県内で給食用パンに楊枝が混入したり学校給食にボルトが入る事件が起きた。九月は卵製品で、島田化学工業のライススターチをつなぎに一%使用していた卵製品を扱っていたことによるもので、当社では事故米使用を知ったと同時にこの製品の即停止と回収に入った。その後そのメーカーの対応に不信を抱き全ての製品を取扱停止にした。この卵製品は、現場(栄養士等)の支持が高くよい製品として積極的に売っていたので結果的に被害は拡大した。ある納入先は、事故米使用を事前に知っていたのなら納入した当社を訴えるという厳しい態度だった。実際に知らなかったので大事には至らなかったが、調べてみると大きな食品事故であっても法的に刑は非常に軽いことがわかった、しかし殆んどの会社は倒産したり売上げが激減している。
◆危機管理の甘さ痛感
振り返ると当社の対応で良かった点は①対象商品の即日販売停止と回収処置。②卵製品はそのメーカー全商品約五十品目の販売停止と商品回収をしたことだ。いずれもISOの是正処置及び予防処置に添って全社的に『誠心誠意・正々堂々』と得意先及び関係者に対応できたと思う。一方で、現場への指示が後で変わったり連絡網の一部が混乱したりで、社員からの批判や非難があった、そのことは信頼関係がなかったと受け止めた。危機管理の認識の甘さを痛感した。
このことをきっかけに経営理念を作り直した。また、ISOの危機管理手順書の見直しに着手した。商品管理の点では商品履歴を明確にするために来年コンピューターシステムの抜本的な更新を計画。
社員達は発生した食品事故の処理に真剣に行動してくれた。トラブルがあっても辞めなかった。しかし発覚した食品偽装などの事件は、その殆んどが内部告発によるものだ。会社への不満や倫理を逸脱した行為に耐え切れないのだと思う。経営者として確固とした倫理観を持つと同時に経営理念の「全従業員の物心両面の幸せの追求」を怠ってはいけない。まずは自分が変わらなきゃと思い、行動指針チェックリストを作り、毎朝自ら社員に挨拶を始めている。「一所懸命」を掲げて全従業員とともに「地域一番店」をめざしたい。
●質疑応答●
Q.管理職の意識を高める方法は? A.仕事の評価を直属の上司がする仕組みにした。部下の賃金に影響するので真剣だ。
Q.地域一番店の基準は?
A.お客様に支持され社員が自信を持って仕事ができる会社。
Q.残業を少なくし生産性をあげる手法は? A.段取りの悪い人間ほど残業が多くて給料が高いという現実問題がある。仕事を減らしたりし早く帰らせるようにした。経営者や管理職が仕事内容を分析して無駄を省く努力と社員の意識改革の積み重ねだと思う。
Q.みなし残業でコストは下がったか? A.コストを下げるために行ったわけでない。社員が時間内に本気で仕事をすることが狙いである。残業代のコストが減った分、基本給をあげた。また、業績が伸び、今期は決算賞与も支給した。
●座長のまとめ●
経営理念の「全従業員の物心両面の幸せ」という部分に非常に感銘を受ける。目に見える部分だけでなく従業員の誇りややりがいの持てる職場づくりの追求は、経営をするにあたって一番大事な部分と思う。これからの尚なる発展を期待する。